コラム

日本トンボ学会の須田真一先生にコラムを執筆していただきました

2024.05.20

「東京のトンボ目録」の公開にあたって、トンボの専門家で目録の監修者でもある須田真一先生(日本トンボ学会)にコラムを執筆していただきました。

コオニヤンマ(Photo by canopus)

東京のトンボ相とその現状

須田真一

 2023年末現在、東京都からは108種のトンボが記録されている。これは鹿児島県に次いで全国2位の記録種数となる。47都道府県中45位と狭小な面積であるにも関わらず、これほどの種数が記録されているのは驚異的とも言える。このことは、東京には良好な自然環境に育まれた多様な水辺環境が存在していたことを示している。くわえて小笠原諸島には世界中でここにしか分布しない固有種が5種生息することも特筆される。

 しかし、首都である東京は全国で最も人口が集中するため、自然環境の人為的破壊改変も著しく、戦後の高度成長期に始まる広域的かつ急激な各種開発、特に池沼や湿地、水田や水路の消失、湧水の減少や枯渇、河川改修に代表される水辺改修や水質汚染、侵略的外来生物の侵入繁殖、などの影響によって、2020年改定の都本土部レッドリストでは、本土部定着種とされる90種のうち50種が何れかのランクに評価され、そのうち9種は絶滅と判定されるまでに減少していることが明らかとなった。小笠原諸島固有種は侵略的外来生物などの影響によって父島からは全種絶滅するなど、極めて危機的な状況となっている。

 一方、開発の進んだ区部や多摩平野部にもトンボがみられる水辺はまだまだ残されており、丘陵の谷戸や山地の渓流などにも環境に応じた多種多様なトンボがみられる。近年の河川の水質浄化や自然再生の取組みによる成果もみられている。例えば、区部周辺の中小河川ではほぼ絶滅状態であった流水性種の復活が複数個所で確認されており、多摩川では羽村取水堰から下流でほぼみられなくなったものが、現在では世田谷区から大田区付近まで復活がみられている。このことは、保全再生の取り組みを進めて行くことによって、東京の各所でふたたび多種多様なトンボがみられるようになる可能性を示している。

【須田真一氏プロフィール】

1968年東京都杉並区生まれ。同区在住。『東京都のトンボ』監修。東京大学総合研究博物館研究事業協力者。東京農業大学農学部、建設省土木研究所環境部、東京大学大学院農学生命科学研究科、中央大学理工学部を経て2019年より現所属。日本トンボ学会副会長、久保川イーハトーブ自然再生協議会副会長・主席研究員、東京都自然環境保全審議会臨時委員、東京都の保護上重要な野生生物種に関する検討会委員 昆虫類・クモ類部会長。専門は昆虫学・保全生態学。